大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)6785号 判決
一 請求原因一の事実(原告が本件実用新案権の権利者であること)、同二(一)の事実(本件考案の構成要件を分説すると、原告主張の如く分説されうること)、同三の事実(被告がイ号物件を業として製造販売していること、および、イ号物件の構造は、別紙目録(〔編註〕省略)末尾(e)の説明部分を除き、原告主張の如く説明されるものであること)、同四(一)の事実(イ号物件の構成は、これを分説すると、原告主張の如く分説されうるものであること)、以上の事実については当事者間に争いがない(なお、本件訴訟においては、イ号物件は、右争いのない程度に特定されれば充分であると考える。別紙目録末尾(e)の説明部分は、もちろん誤りではないが、イ号物件の特定として、必要不可欠のものとは認められない)。
二 そこで、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて、以下検討する。
(一) イ号物件が汚物ポンプであることについては、前記のとおり争いがなく、イ号物件の(イ)´ないし(ニ)´の構成を、本件考案の(イ)ないし(ニ)の構成要件と対比してみると、(イ)´、(ハ)´、(ニ)´の構成が、本件考案の(イ)、(ハ)、(ニ)の各構成要件をそれぞれ充足することは明らかである。この点については、被告も実質的に争つていないものと認められる。
(二) そして、(ロ)´の構成も(ロ)の構成要件を充足するものと考えられる。被告は、(ロ)の構成要件にいう「窪み部」とは、シユラウド自体に設けられたものでなければならず、(ロ)´の構成にはこれがないので、右構成要件を充足しないというが、採用できない。その理由は、次のとおりである。
1 まず、被告は、本件考案にいう「窪み部」が、シユラウドそれ自体に設けられたものでなければならないことは、クレームの記載自体から明白であるというが、クレームの記載上は、「シユラウド前面の一部又は全区画に窪み部を設け、」とあるだけで、他の解釈を許さぬ程に一義的にその意味が特定されているとは認められない。もちろん、右記載から被告主張の如く解釈することは可能であり、むしろその文言上は被告主張の如く解するのが自然であるとも考えられるが、クレームでは、たとえば、シユラウドそれ自体に窪み部を設けるというように、明確に、限定して記載してある訳ではなく、クレームの記載自体が、被告主張の解釈以外の解釈を許さぬものとは断じえないし、クレームの解釈は、その文言どおりに忠実に解釈すべしとする文理解釈に尽きるものでもない(被告も、文理解釈だけを主張している訳ではないが、被告が理由づけとするその他の諸点を検討しても、右主張を採用しえないことについては後記5参照)。
2 そして、このような場合、クレームの文言の解釈は、その文言の言語上の意味にのみ拘泥することなく、発明または考案の性質、内容に照らし、実質的になされるべきであり、そのためには、当該発明ないし考案の明細書ならびに図面に記載されたその発明ないし考案の目的、技術的課題、その課題解決のための技術的思想または解決手段、および、これによる効果等が参酌されるべきである。
そこで、本件考案の明細書によりこれをみるに、成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 従来から開放型羽根車を有する遠心ポンプを汚物ポンプとして使用する場合、(イ)、羽根前縁とケーシングの内面との間隙が狭い構造のもの(一欄二七行目から三〇行目まで)が知られているほか、(ロ)、右構造のものの不具合を避けるために、羽根で区切られるシユラウド前面(全区画)に軸方向の窪み部を設け、うず流れ効果を起させることにより、羽根前面間隙を大きくした構造のものが、ソリツドポンプ、トルクフローポンプ等として知られているが(二欄七行目から一三行目まで)、(ロ)の構造のもの(以下、うず流れ型ポンプという)にも、(a)タオルやタオル大の木綿片等がほとんど切断、破砕されず、(b)シユラウド前面の窪み部により形成される輪状うずのため、繊維類等が羽根に押付けられ被さつた状態でその附近に滞留し、効率が低下しやすいというような欠点があり、これを改良するための汚物ポンプは既に出願されているが(特願昭四六―二二四二三、本件先願特許)、本件考案は、さらに、これを改良しようとするものであること(二欄七行目から二六行目まで)、
(2) 右改良の要点は、汚物内の特に繊維類を積極的に切断しようとするもので、そのために、ケーシング内面から羽根車の前面に向い突出した繊維類切断用プレートを設けた点に、本件考案の特徴があること(二欄二五行目から三三行目まで)、
(3) そして、本件考案は、シユラウド前面の全区画に窪みを有する従来のうず流れ型ポンプにも適用できるが、一部の区画に窪み部をもたない形式のポンプに適用すると、一層効果的であり(四欄二〇行目から二五行目まで)、それは、従来の全区画に窪み部を設けたうず流れ型ポンプでは、各区画で生ずるうず流れにより全体として完全な輪状うずを形成しようとするから、繊維類の滞留が避け難いのに対し、一部区画に窪み部をもたない形式のポンプでは、その区画ではうず流れが生じないため、全体としてドーナツ状の輪状うずを形成しようとするものの、途中で分断した形になるため繊維類の滞留を少くすることができ、排水の効率を高く保持するために有効に作用していると考えられるためであること(三欄一二行目から二三行目まで、四欄二二行目から二五行目まで)、
(4) そして、本件考案は、前記の構成要件からなることによつて、原告主張のとおりの効果をあげるものであること(三欄三五行目から四欄七行目まで)、以上のとおり認められる。
右事実によれば、本件考案の新規な点は、従来シユラウドの全区画の前面に窪み部が設けられていたのに対し、一部区画にのみ窪み部を設けてもよいとしたこと(ただし、この点につき同日出願の考案が存することについては、成立につき争いのない乙第六号証参照)と、繊維類切断用プレートを設けたことにあり、本件考案は、うず流れを生ぜしめる窪み部(窪み部がうず流れを生ぜしめるためのものであることは、前(1)の記載から明らかである)の構成自体に新規な工夫を加えたものでなく、この点については、従来技術を前提としこれを使用するものであると認められる。
3 そこで、窪み部を設ける従来技術として、どのようなものがあつたかをみるに、本件公報において引用の先願の特許公報である成立につき争いのない乙第一号証(本件先願公報)によると、右公報には、その発明の実施例として、別紙参考図(一)(1)、(2)の如きポンプの断面図が図示されていて、(1)図のものについて、「流体は羽根車6の中央ボス前端15付近の斜面(前面11)形状に沿つて、相隣る羽根12間の窪み部に流入し、遠心力を受けて半径方向外方に移動するが、側板前面11の外周部11aは吸入口2側の方向に凹入わん曲しているため、液流は破線で示す如く滑らかに旋回し、……一部は間隙4内に於て、一回転して再び羽根前縁5に向つて流入する」旨説明されており(三欄二五行目から三三行目まで)、(2)図のものについては、「また第3図に示す如く、羽根車6の壁面の流水側の外周部分が、第1図の構造の如く吸入口2の方向にわん曲していない構造の羽根車であつても、湾曲した渦巻室内壁19の作用により液流が破線のようになり、……」との説明がなされていて(四欄二五行目から二九行目まで)、そこでは、うず流れを生ぜしめる構成として、シユラウド前面それ自体に凹入わん曲部を設けた(1)図のものと、シユラウドの前面それ自体は平坦な水平状のものとし渦巻室内壁の作用によりこれを生ぜしめる(2)図のものの二つが示されている。
そして、右公報の二欄二六行目から二九行目までの「従来又羽根車の外周にシユラウドリングを設け、再循環流を形成する……渦巻ポンプは既に提案されている(例えば特公昭三九―二七三二)。」との記載からみると、さらに、これに先行する技術の存することが窺われるので、これについてみるに、成立につき争いのない甲第四号証の一(右特公昭三九―二七三二号公報)によると、同公報の七、八頁には、その発明にかかるものの例として、別紙参考図(四)(イ)ないし(ニ)の形状のものが図示されていて、(イ)図のものについて、「シユラウドリング28は翼25の間の流体の流れの外に向う法線方向の通路を横切るので……外に向つて流れている流体の運動を……逆転する……運動の転換手段として役立つのであるがその結果その運動は羽根車24の軸に向つて内方へ偏向される」旨記載され(三頁左欄二一行目から二六行目まで)、また、(ロ)図のものについても、「翼の間で羽根車に沿つて放射線状に外に向つて運動する流体の反転を容易にする為めに囲30と支え31とは翼33の彎曲した端33aに近接する彎曲した凹所あるいはシユラウドリング32を備えている」旨説明されていて(同右欄三八行目から四二行目まで)、これらのものは、シユラウドとシユラウドリングによる構成が、うず流れを生ぜしめるものであると認められる。
そして、他方、(ハ)図のものについては、「第6図に示されているごとく羽根車34には翼36の彎曲した端36aに近接する彎曲した凹所35aを持つた回転シユラウドが設けられている。この機構において……彎曲した凹所35aは羽根車34の翼36に近接する再循環流体の逆流を容易にするのである」旨記載され(三頁右欄四二行目から四頁左欄三行目まで)、(ニ)図のものについても、「この配列においては羽根車42は翼45の彎曲端45aに隣接した彎曲凹部44aを含有する回転シユラウドリング44を備えている。」旨記載されていて(四頁左欄一五行目から一八行目まで)、これらのものは、シユラウドそれ自体に設けられた構成により、うず流れを生ぜしめるものであると認められる。
右事実によれば、本件考案の出願前、うず流れを生ぜしめる構成として、大別して、(a)、シユラウドそれ自体の構成によるもの(別紙参考図(一)(1)のものと同四(ハ)、(ニ)のもの)と、(b)、シユラウドとその他の部材の構成によるもの(同(一)(2)のものと同(四)(イ)、(ロ)のもの)との両者の存することが明らかであり、これを概括的に説明すると、(a)のものは、シユラウド自体にわん曲凹入部を設けたもの、(b)のもの(ただし、同一(2)のものを除く)は、シユラウドの流体流入口側の直線状の面をシユラウドリングの流体流入口側端面より反流入口側の奥に位置させるものであり、そのいずれのものにあつても、シユラウド面に沿つて流れる流体が軸方向に回転し、うず流れを形成するものであるといえる。そして、(a)のものについて、シユラウド前面に窪み部があるといえることは明らかであるし、(b)のもの(ただし、同(一)(2)のものを除く)についても、シユラウドとシユラウドリングの双方によるものとはいえ、流体を引き込みこれを軸方向へ回転させる凹所がシユラウドの前面に形成されていることには変りがなく、これを窪み部と称しうることも、明らかである(なお、同(一)(2)のものについては、そのシユラウドの流体流入口側の直線状の面とシユラウドリングの位置関係からみて、シユラウド前面に窪み部があるとは認め難い)。
4 しかして、本件考案が、うず流れを生ぜしめる構成について、特に新しい工夫を加えたものではなく、従来から存する技術の使用を前提としていたと認むべきことは前示のとおりであるところ、右(a)、(b)の技術は、本件考案の明細書において引用された特許公報(特公昭五一―二八八四二)、および、さらに、同公報において引用された特許公報(特公昭三九―二七三二)から知り得るものであるから、当然、右前提となる従来技術に含まれるものであり、特に、右(a)、(b)のうちいずれか一つのものだけを採用し、他を除外したことが明らかでない限り、本件考案においては、これらの従来技術を使用することが予定されていると認めるのが相当である。
しかるところ、本件考案の明細書には、右従来技術のうち、(a)のシユラウド自体に窪み部が設けられたものだけを採用したことを明確ならしめる記載は、存しない。前掲甲第二号証(本件公報)によれば、本件考案の明細書において、その第4図(別紙公報図(1)参照)に示されたような形状のポンプは、窪み部を有しないものと考えられていること、および、本件考案が、同図に示されているような窪み部を有しないものを考案の対象としていないことは、被告主張のとおりであるが、そのことは、なんら本件考案が前記(a)のシユラウド自体に窪み部が設けられたもののみを採用したことを意味するものではない。何故なら、右第4図に示されたものは、その図示された形状自体から明らかな如く、前記(a)、(b)いずれの意味においても窪み部を有しないものだからである。同様に、本件考案の明細書において、その実施例として図示されたもの(別紙公報図(2)参照)の区画bについて、窪み部を有しないと説明していること(本件公報三欄一一行目から一二行目まで、四欄二四行目)も、前記(a)の技術のみの採用を意味しない。けだし、区画bのものも、前記(a)、(b)いずれの意味においても窪み部を有しないものだからである。
以上、本件考案の明細書をみる限り、特に、本件考案が、前記(a)、(b)の従来技術のうち、(b)のシユラウドとシユラウドリングにより窪み部を設けるものを除外したと断ずべき理由は、認められない。
むしろ、本件考案の明細書に、従来からの窪み部を有するポンプの例として、ソリツドポンプとトルクフローポンプの名があげられていることは、前記のとおりであるところ、成立につき争いのない甲第三号証の一ないし七と乙第四号証の一ないし四によると、日刊工業新聞社が昭和三七年八月二五日に発行した「ハイドロリツクコンベヤ」では、別紙参考図(三)(2)のシユラウドそれ自体に窪み部を有するアメリカ国ウエムコ社のポンプが“ソリツドポンプ”として紹介され、また、同新聞社が昭和四四年九月三〇日に発行した「ポンプ工学」において、同図(1)のシユラウドとシユラウドリングにより窪み部を構成するスイス国エミレ・エツガー社のポンプが“トルクフローポンプ”として紹介されていることが明らかであるから、本件考案の明細書にいうソリツドポンプ、トルクフローポンプも、それぞれ、右に紹介されているような構造のものを指称しているとみることが可能であり、そうだとすれば、原告が主張するように、本件考案の明細書自体に、うず流れを生ぜしめる手段として、シユラウドとシユラウドリングにより窪み部をつくる構造のものを採用してもよいことが、示唆されているということも可能である(ただし、この点については、後記5(1)参照)。なお、原告は、トルクフローポンプとは、うず流れ型ポンプの普通名称であり、ソリツドポンプとは、ウエムコ社のポンプの商標名であるというが、原告指摘の資料からは、直ちに、右の如く断じ得ないし、他に、これを認めるに足る証拠はない。
5 しかるところ、被告は、右にみた本件考案の明細書の記載だけでなく、本件先願公報の記載等を引用して、本件考案は、窪み部を構成する従来技術のうち、前記(a)のシユラウド自体に窪み部を設ける技術を採用したものであることが明らかであると主張するけれども、以下説示のとおり、採用できない(なお、被告指摘の各資料、ことに考案者の論文を本件クレーム解釈の資料とすべきか否かは問題であるが、ここでは、その点はしばらく措き、一応、被告の主張に従つて検討しても、その理由のないことを明らかにするものである)。
(1) なる程、(イ)クレーム記載の文言上、本件考案にいう「窪み部」を、被告主張の如く、シユラウドそれ自体に設けられた窪み部と理解することが可能であり、むしろ、そう解する方が自然であるとも考えられること、および、本件考案の明細書に図示されている窪み部は、シユラウドそれ自体に設けられたものだけで、それ以外の構成のものはなんら示されていない(別紙公報図(2)参照)ところ、前掲乙第一号証、第六号証、成立につき争いのない乙第五号証の二によると、本件先願公報、本件同日出願公報、本件後願書類において、被告指摘の各記載がなされていることが明らかであり、そこでも(但し、本件後願書類を除く)、本件考案の明細書におけるのと同様、窪み部として明示されているのは、シユラウドそれ自体に設けられたものだけであつて、それ以外の、たとえば、シユラウドとシユラウドリングにより窪み部を設けたものは示されていないこと(なお、本件先願公報には、被告主張のとおりの説明がなされ、図面が示されているところ、そこにいう「側板前面」が、側板すなわちシユラウドの前方部分をいうのでなく、シユラウドそのものの前面部分をいうものであることは、右各図とその説明により明らかである。別紙参考図(一)(1)、(2)の各付番11参照)、(ロ)原告が、本件考案の実施品を掲載した汚物ポンプのカタログにおいて、被告主張の如く宣伝していること自体は、原告も争つていないと認められるところ、そこで、窪み部といわれているものもシユラウド自体に設けられたものであること、(ハ)成立につき争いのない乙第二号証の一ないし四によると、本件考案の考案者は、被告主張の雑誌において、前記「ハイドロリツクコンベヤ」でソリツドポンプと呼ばれているウエムコ社のポンプと同様のシユラウド自体に窪み部をもつポンプをトルクフローポンプと呼んでいることが明らかであり、右事実と前記(イ)の事実によると、原告が、トルクフローポンプというのは別紙参考図(三)(1)の如きシユラウドとシユラウドリングにより形成される窪み部を有するものであると主張するのと異なり、考案者としては、ソリツドポンプにせよ、トルクフローポンプにせよ、いずれにしてもシユラウド自体に窪み部を有するものと認識していたのでないかとも考えられ、そうだとすれば、本件考案の明細書において、「従来開放型羽根車を有する遠心ポンプの羽根車で……シユラウド前面……に軸方向の窪み部を設け……た構造は、例えばソリツドポンプ、トルクフローポンプ等として知られている。」(前記2(1)、本件公報二欄七行目から一二行目まで参照)というときの窪み部とは、シユラウド自体に設けられた窪み部を意味し、したがつて、これを前提とする本件考案の「窪み部」も、シユラウドそれ自体に設けられた窪み部を意味すると解するのが、自然になつてくること、以上、(イ)ないし(ハ)の点に鑑みると、被告が、考案者の認識にある窪み部とは、シユラウド自体に設けられた窪み部だけであり、したがつて、本件考案にいう「窪み部」もこれと同一構造のものをいうと解されねばならないとするのも、あながち、理由のないことではないと考えられる。
(2) しかしながら、ひるがえつて考えてみるに、(イ)の点についていえば、前認定の事実は認められるにしても、そこでは、積極的に、シユラウドとシユラウドリングによつて窪み部を構成したものについて、窪み部がないと説明している訳ではなく、そこで図示され窪み部がないと説明されているものは、いずれも、前記(a)、(b)いずれの意味においても窪み部を有しないものであることが、その図示された形状自体から明らかであるから、右事実は、被告の前記主張を裏づけるに充分なものとはいえない。また、(ロ)の点についても、被告主張のカタログにおいて、原告がその主張の如く宣伝していることから、本件考案において、シユラウド自体に窪み部を設けたものだけが窪み部と考えられていたと断じえないことは、原告主張のとおりと考えられる。
そして、(ハ)の点についても、考案者がみずから発表した論文において、シユラウド自体に窪み部のあるポンプをトルクフローポンプと称しているからといつて、同人の従来技術に関する認識が、シユラウド自体に窪み部を設けたものに限られると断ずることはできない。けだし、同人が、別紙参考図(一)、(1)、(2)、同(四)(イ)ないし(ニ)の各構造のポンプを認識していたと認むべきことは、前示のとおりであるところ、同(四)(イ)、(ロ)のものは、まさに、シユラウドとシユラウドリングにより窪み部を設けているものにほかならないからである。
また、ソリツドポンプ、トルクフローポンプなる名称の使用方法が、被告主張の如きものとして、明確に統一され、確立されていると認めるに足る証拠はないから、考案者が、前記ポンプをトルクフローポンプと称していることをもつて、誤りと断ずることもできない〔なお、この点については、「流体工学」一九七七年七月号の四二七頁には「渦ポンプは通称ソリツドポンプとも云われ」とあつて、その渦ポンプ内の流れ様式を示す図には、その窪み部がシユラウドとシユラウドリングによつて構成されたものが示され(別紙参考図(五)(1)参照、これは、前記ポンプ工学において、トルクフローポンプと呼ばれているものの窪み部と同じ構造のものである)、一方、「ポンプハンドブツク」(一九七六年、米国、マグローヒル社発行)の第一〇節三〇頁11図には、トルクフローポンプとして、ウエムコ社のポンプ(別紙参考図(五)(2)参照、その窪み部の構成は、前記ハイドロリツクコンベヤにおいて、ソリツドポンプとして紹介されているものと同様である)が示されていること参照〕。
(3) 右に検討したとおりであつて、前記(イ)ないし(ハ)の事実が認められるからといつて、直ちに、被告主張の如く断ずることはできないのである。
そして、本件考案の明細書自体に、シユラウドとシユラウドリングにより窪み部を設ける構成のものを除外したと認むべき記載のないことは前示のとおりであり、また、前示本件考案の内容に照らし実質的に考えてみても、これを除外したものとすべき理由は認め難いこと、および、一般に、明細書の記載自体あるいは出願経過からみて、特定の技術を除外したことが明らかでない限り、これを除外したと解するのは、妥当でないと考えられること等を併せ考えると、本件においては、シユラウドとシユラウドリングにより窪み部を設けたものを除外したとすべき理由は、認め難いというべきである。
結局、被告の前記主張は、採用できない。
6 そして、以上の認定、判断をもとにして考えるとき、本件考案の(ロ)の構成要件にいう「シユラウド前面……に窪み部を設け、」とは、単に、シユラウドの前面それ自体に窪み部を設けることだけでなく、シユラウドとシユラウドリングの双方によつて、シユラウドの前面部分に窪み部を構成することをも含むと解するのが相当である。
そこで、イ号物件に、クレームにいう「窪み部」が存するか否かをみるに、これに該当する窪み部の存することは、争いのない別紙目録の記載自体から、明らかである。したがつて、(ロ)´の構成は、(ロ)の構成要件を充足する。
(三) そして、イ号物件は、(イ)´ないし(ニ)´の構成を有することによつて、本件考案と同一の作用効果を有するものと認められる。被告は、作用効果の相違を主張するが、被告の主張するところに従つても、イ号物件が本件考案と同一の作用効果を有することを否定すべきものとは認められない。
(四) よつて、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。
三 そうすると、被告は、イ号物件を業として製造販売することによつて、原告の本件実用新案権を侵害しているものというべきである。
四 原告は、被告の侵害行為により合計二六万六七〇〇円の損害を蒙つたと主張し、その賠償を請求するが、右損害の発生および損害額を認定するに足る証拠はない。
五 以上のとおりとすると、本訴請求中、イ号物件の製造、譲渡、貸し渡しの差止めとその廃棄を求める部分は理由があるが(実用新案法二七条)、その余の請求は理由がないというべきである。
よつて、原告の請求を右の限度で認容する。